あるエンジニアの
バークレー
(アメリカ・カリフォルニア州)
留学体験記

14 ダイナソア


Dinosaur National Monument

  コロラド州とユタ州の北部境界をまたいだ荒涼とした乾燥地帯に、ダイナソアというナショナルモニュメントがある。その名の通り、恐竜の化石が数多く発見された地域である。園内には、骨の発掘現場をそのまま囲むように建物が立てられていて、一般人が化石を直接見学できる場所がある。ここでは大小様々な恐竜の化石を見ることができた。ステゴザウルスやブロントザウルス、キャンプトザウルス・・・。まさにこの場所で、1億四千万年という気の遠くなるような昔に死んでいった動物たちの化石を。

  人類の祖先、アウストラロピテクスが誕生したのが今からほぼ200万年前だから、その70倍もの昔だ。エジプトに国家が成立し、人類の歴史が始まったのが今から5000年前だから、その何と2万8000倍も昔のことなのだ。こんな途方もない年月に思いを馳せると、僕は自分の人生のあまりの短さに愕然として、憂鬱になる。どうしてこんなにも人の命は短いのだ。僕はもっと長く生きたいのに。

  今、ちまたでは恐竜ブームである。人は皆、人の力を遥かに越えた長い時に憧れを抱くのだろうか。

  そんな限りない昔に、恐竜たちはこの場所に生きていた。シダ類の生い茂る中、この地を闊歩していたのだ。当時彼らは地上最強の生物だったろう。現在の人類のように。ただし、それでも彼らは食物連鎖の枠のなかで生き、自然を破壊したり多くの種を絶滅に至らしめることはしなかった。他の種と共存して生きていたのだ。そんな彼らでさえ絶滅したのだ。もし神が存在するなら、彼が人類に下す審判は容易に想像できる。罪多き人類も絶滅すべし。

  今から1億4000万年の後の生物は、地上にどんな化石を見つけることだろうか。

  ダイナソアでは、1000年前に描かれたという壁画をも見ることができる。標識を見つけて立ち寄ると、道路の脇に何の保護もされず野ざらしになった壁画をみつけた。子供の絵は技巧に依存せず描きたい気持ちを素直に表現していて素朴で美しい。ここの絵にはそんな感動があった。何が描かれているのかわからないが、描きたい意志が伝わってくる。宇宙人やUFOのように見えるのは、現代人の勝手な解釈かも知れない。何らかの儀式かも知れない。本当に宇宙人なのかも知れない。いずれにせよ、謎めいていて、想像をかきたてさせてくれる絵であることは確かだ。

  モルモン教の総本山、ソルトレイクシティの教会では、彼らなりの絵文字の解釈を説明してくれた。これらの壁画はキリスト教をアメリカ大陸に広めるためにヨーロッパから渡ってきたフレモント人の絵文字であり、キリスト教について記されているのだという。プロテスタントやカトリックには異端と決めつけられたモルモン教だが、彼らはキリスト教をアメリカに広めるための純然たる一派と自負している。

  長い歴史をもつ宗教を評論する権利を僕は持たないが、それぞれにそれぞれの解釈があるものだと思った。

  ダイナソアでは、恐竜の化石と不思議な壁画を見て、時空を越え、はるかな過去に触れた気がした。人の歴史は長く複雑だ。様々な場所に様々な文化が生まれては消えていった。生命の歴史は、さらに複雑で長い。様々な場所に様々な種が発生し、隆盛をきわめ、衰退していった。そして自然は、様々に形を変えながら、長い命の歴史を見守ってきた。

  こんな時間が、これからも限りなく刻まれてゆくのだろうか。



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