ヒューマンシステムデザイン研究室


幸福度の推奨アンケート(SWLS、幸せの4因子など)について

企業での働き方改革、ワークエンゲージメント、マンドフルネス、健康経営、Well-Being経営などのニーズの高まりに伴い、「幸福度をアンケート調査したいのですが、どのアンケートが有効ですか?」という質問を多く受けます。そこで、このページで、推奨するアンケートと、これまでに得られた結果の一部について述べます。

まず、主観的幸福度の総合指標としては、「幸福学の父」ともいわれるEd Dienerによる人生満足尺度(SWLS)が広く用いられています。ただし、幸福度を1つの指標としてみているため、「幸せの形」を分析することはできません。そこで、私たちは、幸せを4つの指標に分けて捉える「幸せの4つの因子」を開発しました。幸せの4つの因子を計測するには、以下の(2)、(3)の質問が有効と考えています。以下の項目について、それぞれ述べます。

目次:
(1) 人生満足尺度(SWLS)
(2) 幸せの4因子アンケート一般向け
(3) 幸せの4因子アンケート企業版
(4) その他の幸福度アンケートについて
(5) 多様性適応力のアンケートについて
(6) アンケートのサービスについて
(7) おわりに


概要:

(1) Dienerによる人生満足尺度(SWLS)

幸福度の総合指標として広く用いられている指標です。SWLSは、Satisfaction With Life Scale の略です。

以下の5つの質問に7件法(1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う)で答えてもらい、5つの数値を足してもらうというものです。

人生満足尺度SWLSの質問:
1. ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い
2. 私の人生は、とてもすばらしい状態だ
3. 私は自分の人生に満足している
4. 私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた
5. もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう

ただし、5つ目の質問は、欧米では幸福度との相関が高いものの、アジアでは低いとも言われています。
筆者らが15歳から79歳までの日本人1500人に対して行ったウェブでの調査(2012年)では、平均は18.9点でした。図1を見てください。日本人1500人の点数分布です。


        図1 人生満足尺度のヒストグラム
          (『幸せのメカニズム』より)

なお、筆者らがオンラインカウンセリングcotreeとともに行なった幸福タイプ診断での15,028名の平均値は22.5でした(表1参照)。

また、『幸せを科学する』(大石繁宏、2009年、新曜社)によると、ある調査では、フランス系カナダ人男性:27.9、フランス系カナダ人女性:26.2、アメリカの大学生:24.5、日本の大学生:20.2、韓国の大学生:19.8、中国の大学生:16.1、アメリカの囚人男性:12.7、のような分布になっていたそうです。
母集団が異なるとかなり値が異なることがわかります。このため、平均値や分布を求めることによって、個人や集団の幸福度を調べることができます。

(2) 幸せの4因子アンケート一般向け

少し長くなりますが、アンケート項目を紹介する前に、幸せの4つの因子を導出した経緯を述べます。

私たちは、幸せの心的特性の全体像を明らかにするために、幸せの心的特性についての29項目87個のWEBアンケートを、日本人1500人に対して行いました。質問には、1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う の7段階で答えてもらいました。その結果を因子分析したところ、4つの因子が求まりました。結果を以下に示します。
4つの因子の下には、それぞれの因子と関連深かった(因子負荷量が大きかった)質問を、各因子につき4つずつ掲載しています。よって、各因子4つ、合計16の質問をすれば、それぞれの人の幸せの形を、4つの因子という形で求めることができます。

第1因子 「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
・コンピテンス(私は有能である)
・社会の要請(私は社会の要請に応えている)
・個人的成長(私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた)
・自己実現(今の自分は「本当になりたかった自分」である)

第2因子 「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
・人を喜ばせる(人の喜ぶ顔が見たい)
・愛情(私を大切に思ってくれる人たちがいる)
・感謝(私は、人生において感謝することがたくさんある)
・親切(私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている)

第3因子 「なんとかなる!」因子(まえむきと楽観の因子)
・楽観性(私はものごとが思い通りにいくと思う)
・気持ちの切り替え(私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない)
・積極的な他者関係(私は他者との近しい関係を維持することができる)
・自己受容(自分は人生で多くのことを達成してきた)

第4因子 「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
・社会的比較のなさ(私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない)
・制約の知覚のなさ(私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない)
・自己概念の明確傾向(自分自身についての信念はあまり変化しない)
・最大効果の追求のなさ(テレビを見るときはあまり頻繁にチャンネルを切り替えない)

幸せの4つの因子のアンケートをしたい場合、以下の16項目のアンケートを行い、結果を、各因子ごとに(4つずつ)合計すれば、4因子の値が求まります。

幸せの4つの因子の質問16項目(『幸せのメカニズム』より):
1. 私は有能である
2. 私は社会・組織の要請に応えている
3. 私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた
4. 今の自分は「本当になりたかった自分」である
5. 人の喜ぶ顔が見たい
6. 私を大切に思ってくれる人たちがいる
7. 私は、人生において感謝することがたくさんある
8. 私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている
9. 私はものごとが思い通りにいくと思う
10. 私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない
11. 私は他者との近しい関係を維持することができる
12. 自分は人生で多くのことを達成してきた
13. 私は自分と他者がすることをあまり比較しない
14. 私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない
15. 自分自身についての信念はあまり変化しない
16. テレビを見るとき、チャンネルをあまり頻繁に切り替え過ぎない
(いずれも、1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う の7段階で回答します。)

結果の例を表1に示します。オンラインカウンセリングcotreeのオンライン幸せ診断サイトで回答してくださった15,028名の平均値です。図より、質問ごとに平均値が異なることがわかります。

表1 オンラインカウンセリングcotreeの幸せ診断参加者15,028人の平均値
(いずれも、1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う の7段階で答えてもらった平均値)

(3) 幸せの4因子アンケート企業版

企業での働き方改革、従業員満足度、ワークエンゲージメント、健康経営、Well-Being経営、ストレスチェックなどのKPI明確化議論が進む近年、幸福度計測のニーズも高まっています。このため、上述の一般向け4因子指標を多少変更して、企業の従業員(会社員)の幸福度を計測する16の質問を開発しました(具体的には、16の「テレビを見るとき、チャンネルをあまり頻繁に切り替え過ぎない」が、会社での幸福測定にはそぐわないので、「経営・運営の判断を頻繁に切り替え過ぎない」に変更しました。変更箇所はここのみです)。

1. 私は有能である
2. 私は社会・組織の要請に応えている
3. 私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた
4. 今の自分は「本当になりたかった自分」である
5. 人の喜ぶ顔が見たい
6. 私を大切に思ってくれる人たちがいる
7. 私は、人生において感謝することがたくさんある
8. 私は日々の生活において他者に親切にし手助けしたいと思っている
9. 私はものごとが思い通りにいくと思う
10. 私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない
11. 私は他者との近しい関係を維持することができる
12. 自分は人生で多くのことを達成してきた
13. 私は自分と他者がすることをあまり比較しない
14. 私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない
15. 自分自身についての信念はあまり変化しない
16. 仕事や活動上の判断を頻繁に切り替え過ぎない
(いずれも、1 全くそう思わない、2 ほとんどそう思わない、3 あまりそう思わない、4 どちらともいえない、5 すこしそう思う、6 かなりそう思う、7 とてもそう思う の7段階で答えてもらう)

結果のイメージを図2に示します。部署ごとに比べたり、 オンラインカウンセリングcotreeの値と比べることによって、各社、各部署、各人の幸せの形を確認することができます。もちろん、比較によって勝ち負けを競うものではなく、強いところを伸ばしたり、弱いところを認識したりして、これからのアクションにつなげていくためのものです。


          図2 幸せの形をレーダーチャートにした例


また、分析結果を一例を図3に示します。
図3は、一般社団法人企業研究会のあるグループによる2017年の調査結果です。図より、定型業務よりも非定形業務をしている者の方が、やってみよう(右上)、なんとかなる(左下)、ありのままに(左上)因子が高いことがわかります。一方、ありがとう因子(右下)では顕著な差は見られません。このため、定型業務をしている従業員にも、何か非定形業務を行う余地のある働き方を推奨することが重要であることがわかります。このように、結果を比較することによって、様々なことが見えてくるのです。

           図3 定型業務と非定型業務の幸福度の違い


幸福度の形がわかったら、それを参照しながら、幸福度を伸ばしていくエクササイズやトレーニングを行うことができます。私たちは、幸福度を向上するWell-Beingプログラム(ハッピーワークショップ)企業版・一般向けを行なっており、幸福度向上効果(人生満足尺度と、幸せの4つの因子の向上効果)を確認しています。
幸福度が向上すると、生産性や創造性が向上し、欠勤率や離職率が減少することも、学術的に確かめられています。さらに、幸福度が高い人は、寿命も長く、友人も多く、友人の多様性も高く、利他的で、自己肯定感・自己有用感・自己受容も高いことなどが知られています。つまり、幸せになることは、ライフ、ワークのあらゆる面においていいことだらけです。
幸福度を向上するためには、まず、幸福度を計測し、次に、幸福度を向上するプログラムを実施して幸福度の向上を目に見える形で高めていくことが有効です。以下に、私たちが行なっているWell-Beingプログラム(ハッピーワークショップ)の例を述べます。ご興味のある方はお問い合わせいただければ幸いです。


           図4 Well-Beingプログラムの例

(4)その他の幸福度アンケートについて

前野研究室では、幸せの4つの因子以外にも、いくつかの幸福度アンケートを開発しています。その一部を以下に示します。

はたらく人の幸せ/不幸せ診断はこちら
幸福度診断Well-being circleはこちら
地域生活のWell-being指標はこちら

また、幸福度アンケートとして定評のあるものには、Dienerらによる人生満足度尺度の他に、World Happiness Report などで用いられている10段階のラダーによるものや、フレドリクソンらによる感情的幸福があります。以下に、これらについて述べます。

World Happiness Reportなどで用いられている幸福度調査は、10段階のラダーによるものです。すなわち、

“Please imagine a ladder, with steps numbered from 0 at the bottom to 10 at the top. The top of the ladder represents the best possible life for you and the bottom of the ladder represents the worst possible life for you. On which step of the ladder would you say you personally feel you stand at this time?”
”一番下が0、一番上が10のスケールをイメージして下さい。スケールの最大値10は可能な最高の生活を、最小値0は可能な最低の生活を表します。このスケール上であなたの位置はどこだと思いますか?”

という問いに答えてもらうものです。これについてのコメントはブログ
http://takashimaeno.blog.fc2.com/blog-entry-424.html
に書いたのでご参照ください(私はあまり優れた尺度ではないのではないかと考えています)。

次に、フレドリクソンらによる感情的幸福について述べましょう。
Dienerらによる人生満足尺度は、「わたしの人生は幸せだ」というときのような、かなり長いスパン(数年?数十年)の幸せについての尺度です。一方で、「美味しいものを食べて幸せな気分」のような短いスパン(数分〜数時間)の幸せもあります。短いスパンの幸せを計測するには感情的幸福が有効と言われています。感情的幸福としては、ポジティブ感情(PA, Positive Affect)とネガティブ感情(NA, Negative Affect)を測るのが一般的です。
佐藤・安田(2001)の日本語版(PANAS: Positive and Negative Affect. Schedule)によると、ポジティブ感情、ネガティブ感情それぞれ8項目に対して、6件法(1:全くあてはまらない、2:当てはまらない、3:どちらかと言えば当てはまらない、4:どちらかと言えば当てはまる、5:当てはまる、6:非常によく当てはまる)でアンケート調査を行います。

ポジティブ感情の8項目:
活気のある
わくわくした
気合の入った
きっぱりした
機敏な
誇らしい
強気な
熱狂した

ネガティブ感情の8項目:
いらだった
苦悩した
ぴりぴりした
びくびくした
恥じた
うろたえた
心配した
おびえた

私たちが行った日本人1500人調査の結果は、以下の通りでした。カッコ内の数値は平均値です。参考にしていただければ幸いです。

ポジティブ感情8項目:
活気のある(3.42)
わくわくした(3.36)
気合の入った(3.19)
きっぱりした(2.98)
機敏な(2.97)
誇らしい(2.91)
強気な(2.90)
熱狂した(2.64)
合計(24.37)

ネガティブ感情の8項目:
いらだった(3.34)
苦悩した(3.14)
ぴりぴりした(2.85)
びくびくした(2.57)
恥じた(2.49)
うろたえた(2.48)
心配した(2.48)
おびえた(2.34)
合計(21.69)

(5)多様性適応力のアンケートについて

私たちが開発した多様性適応力

津々木晶子,氏橋祐太,白坂成功,松崎英吾,前野隆司,多様性適応力評価尺度の開発と適用の試み−日本ブラインドサッカー協会のワークショップを対象として−,スポーツ産業学研究,Vol. 25,No. 2,2015年9月,pp. 277-291

も、幸福度と相関があることを確認しています。多様な者が共に何かを成し遂げるチームにおいて必要な力を計測することができますので、ぜひご活用ください。


    図4 多様性適応力8要因の分類とそのロジックツリーおよび収集した仮尺度の関係図

表2 多様性適応力の要因名と定義


(6) アンケートのサービスについて

幸福度のアンケートを無料で(企業の場合には安価で)行っていただくために、一般社団法人ウェルビーイングデザインを設立しました。
詳細は社団法人のホームページ(https://well-being-design.com)をご覧ください。

(7) おわりに

幸福度を計測する尺度について述べてきました。コミュニティーの幸福度調査、働き方改革、従業員満足度調査、健康経営などの指標として、ここで述べた人生満足尺度や幸せの4つの因子(一般向けまたは企業版)を用いることが有効と考えられます。また、事情に応じて他の手法を併用することもできます。
なにかご不明な点がありましたら、お問い合わせ頂ければ幸いです。
あらゆる人に幸せになっていただくことが私の願いですので、同じ思いの方がここに書いた内容をご利用になるのは、出典を明記していただけるなら、全てフリーです。出典を明記して営利目的で利用いただくのも自由です。ただし、さらなる改善につなげるために、どのように用いたか、効果はどうであったかをフィードバックしていただけるとうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。

参考文献
(1)前野隆司、幸せのメカニズム−実践・幸福学入門、講談社現代新書、2013
(2)しあわせ総合情報サイト:http://www.happyevol.com/shiawase/index.html
(3)蓮沼理佳、幸福・性格・欲求の調査アンケートに基づく幸福感の関係解析、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士論文、2012年3月
(4)佐伯政男、日本人の幸福度向上のための幸せの文化差・地域差の研究、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科博士論文、2015年3月
(5)オンラインカウンセリングcotree幸福タイプ診断
https://cotree.jp/assessments/happy_workshop
(6)津々木晶子,氏橋祐太,白坂成功,松崎英吾,前野隆司,多様性適応力評価尺度の開発と適用の試み−日本ブラインドサッカー協会のワークショップを対象として−,スポーツ産業学研究,Vol. 25,No. 2,2015年9月,pp. 277-291
(7)前野マドカ,前野隆司,櫻本真理,“ハッピーワークショップ”の幸福度向上効果,支援対話研究,第4号,2017年3月,pp. 3-16