現代版株式持ち合いに
関する考察
現代版
株式持ち合いに
関する考察
― 株主資本主義の是正に着目して ―
株式持ち合いを「旧弊」として一律に縮減する政策は、企業の長期経営、研究開発、雇用、事業連携、国富の維持にどのような影響を及ぼすのか。本稿は、1950年代以降の制度史と経営学研究を踏まえ、会社法とコーポレートガバナンス・コード、実質株主、議決権行使、株主アクティビズム、共通株主、実体経済までを横断して「現代版株式持ち合い」の必要性を検討します。
本稿は内部討論のためのディスカッション・ペーパーです。
2025年6月18日版の未定稿であり、本文の引用・複写には著者の承諾が必要です。本ページは論旨を紹介するもので、論文本文の公開・転載を行うものではありません。
持ち合いの是非を、企業・市場・法制度・社会の全体像から問い直す。
本稿は株式持ち合いを無条件に肯定するものではありません。長所と問題点の双方を確認したうえで、縮減後に誰が株式を保有し、どの時間軸と利益基準で企業を統治するのかまで含めて評価します。
PDF総ページ数
要旨、英語Abstract、7章の本文、参考文献を含むフルバージョンです。
論証を組み立てる章
問題設定から制度史、評価、会社法、現代的課題、縮減の影響、将来展望へ進みます。
再接続すべき法制度層
市場規制を担うSoft Lawと、会社の基本構造を規律するHard Lawの役割を分けて検討します。
フルバージョンが正面から扱う三つの問い。
保有比率の大小や資本効率だけで判断せず、ガバナンスの目的、企業間関係、制度改革の順序まで問いに含めます。
企業ガバナンスは、どの社会像を実現するために設計されるのか。
株主利益最大化を起点とするのか、会社の社会的公器性と「社中」全体への貢献を起点とするのかによって、望ましい制度の帰結は変わります。
株式持ち合いの長所と問題点は、現代にもどのように残っているのか。
安定株主、長期取引、研究開発、リスク・シェアリングを再確認しつつ、議決権の形骸化、経営陣の固定化、価格変動リスクも検討します。
縮減を進めるなら、その副作用を抑える制度は整っているのか。
実質株主の透明性、信託口の議決権、株主提案権、過度なアクティビズム、共通株主への集中を、会社法と市場規制の双方から問い直します。
歴史・経営・法・市場・実体経済を、七つの章で接続する。
フルバージョンは、株式持ち合いの機能と評価にとどまらず、Hard LawとSoft Law、実質株主、アクティビズム、共通株主、地域経済、企業の危機耐性まで議論を広げています。
問題の所在
CGコードの設計思想、海外投資促進、縮減後の帰結、資本市場目線のステークホルダー主義を検討します。
議論の整理
安定株主の機能、1950年代以降の変遷、株式持ち合いと資本提携の用語上の違いを整理します。
メリット・デメリット
中長期経営、協力関係、短期圧力の緩和と、議決権形骸化、EBPM上の課題を文献から検討します。
ガバナンスと会社法
内部統制、CGコード、Hard Law/Soft Law、会社法の公共性と制度収斂の限界を論じます。
現在の考慮項目
ファンド属性、実質株主、信託口の議決権、企業群ごとの対応、戦略的資本提携を扱います。
縮減により生じる影響
共通株主への集中、アクティビズム事例、株主提案権、配当権限、CGコード運用の副作用を検討します。
まとめと今後の展望
現代版持ち合い、螺旋型ロジック・シフト、実体経済、「ダムの経営」、制度改革の方向を示します。
同じ「持ち合い」でも、その役割は時代とともに変わる。
本稿は、持ち合いの機能を固定的に捉えず、制度環境の変化に応じてロジックが移り変わるものとして整理します。
戦後再編と企業集団の形成
財閥解体後に分散した株式を法人・銀行が引き受け、安定株主と企業間協調を形成しました。
資本自由化と買収への備え
外資による企業買収への対応として、安定株主確保の意味が強まりました。
長期協力と「投資障壁」批判
企業グループの安定を支える一方、国際化の進展の中で自由競争を妨げるとの批判が強まります。
金融危機・時価会計と解消
バブル崩壊、銀行の保有リスク、会計ビッグバンを背景に、金融機関主導で売却が進みました。
CGコード・PBR・アクティビズム
政策保有株式の開示・縮減要請が強まり、受け皿、実質株主、長期資本の再設計が新たな課題になります。
安定株主と中長期経営
短期的な株価変動や株主圧力を和らげ、経営者が長期の事業方針を遂行しやすくします。
取引コストと情報交換
継続的な取引関係を通じ、契約・探索コストを抑え、企業間の知識共有を支えます。
リスク・シェアリング
事業撤退、新興産業への参入、雇用受け入れなどで、企業集団が経営リスクを分担します。
研究開発と雇用の継続
成果まで数十年を要する研究開発を支え、従業員が腰を据えて取り組む環境を形成します。
「顔の見える株主」の規律
日常的な事業・金融取引を通じた相互責任、義務、信頼が、経営者の自律的規律を生み得ます。
戦略的事業提携
VUCA環境で一社完結が困難になるほど、資本関係を伴う長期連携と供給網の安定性が重要になります。
株式持ち合い(狭義)
二社以上が合意に基づき、互いの発行済株式を取得・保有する関係です。安定株主形成や企業間関係の強化を目的としてきました。
資本提携・政策保有との接点
片方のみが株式を保有する戦略的資本提携も、現在の開示・縮減要請の対象になり得ます。本稿は規制の実態を踏まえ、広い範囲を検討します。
経営陣の固定化
安定株主が現経営陣を無条件に支持すれば、外部監視が働きにくくなる可能性があります。
議決権の形骸化
相互に賛成票を投じる「なれ合い」「もたれ合い」が、株主総会の実質を弱めるおそれがあります。
価格・資本効率リスク
保有目的や便益が不明確な株式は、株価下落時の財務リスクや資本効率上の課題になります。
平均値からの制度設計
実証研究の平均的関連を全企業へ一律適用すると、業種・取引関係・企業特性の差を見落とす可能性があります。
縮減は「株式が消える」ことではなく、保有主体が交代すること。
本稿が重視するのは、政策保有株式を売却した後の受け皿です。事業法人や金融機関から、外国法人、信託口、大規模資産運用機関、アクティビストへ所有が移れば、企業との関係性、議決権行使の基準、経営に求める時間軸も変わります。
市場規制の改革だけが先行すると、制度全体に非対称が生じる。
本稿は、国際的な収斂が進みやすい市場規制と、各国の法体系・社会観に根差して分化する会社法を区別します。
一つの制度だけでは、企業統治の全体を設計できない。
会社法は株主総会、取締役会、監査役会、代表取締役などの基本構造を定めます。これに対し、CGコードやスチュワードシップ・コードは、市場参加者の行動原則や対話のあり方を規律します。
本稿は、Soft Lawで政策保有株式の縮減が強く促される一方、実質株主を知る権利、株主提案権、過度なアクティビズムへの対応など、Hard Law側の整備が後追いになっている点を問題視します。
会社法・証券法
会社の基本構造、機関、株主権、取締役の権限と責任を規律する強行法規の層です。
- 各国の法体系、企業観、歴史に依存し、全面的な国際収斂は起こりにくい。
- 会社の公共性、従業員・社会への配慮を含む解釈の蓄積がある。
- 実質株主、株主提案、配当権限など、副作用への制度対応を担う。
CGコード・上場規則
Comply or explainを基礎に、上場会社と機関投資家へ望ましい行動を求める市場規制の層です。
- 国境を越える金融取引に適合しやすく、国際標準化・収斂が進みやすい。
- ベストプラクティスを示せる一方、事実上の一律遵守に変わる危険がある。
- 縮減率や量的基準だけでなく、説明の内容と企業固有性を重視する必要がある。
資本市場優先の改革
政策保有株式の開示・縮減、ROE・PBR、議決権基準が先行します。
保有主体の交代
信託口、海外ファンド、巨大運用機関の影響力が高まります。
副作用への法整備が遅れる
実質株主の透明性、株主提案、利益相反への対応が後追いになります。
二層を同時に改革する
Soft Lawの機動性とHard Lawの権利・責任設計を適時に接続します。
現代版持ち合いを考えるための六つの実務論点。
現在の株式市場では、株主の属性、議決権行使の実務、企業群の特性、戦略的提携の必要性が、従来以上に重要になっています。
アクティビストの属性
建設的対話の名の下でも、投資期間、報酬構造、出口戦略により、短期の株主利益を優先する可能性があります。大株主へ統治上の役割を委ねる前提を吟味します。
Know Your Shareholder
発行会社が信託口の背後にいる実質株主を把握しにくい情報の非対称を検討し、企業と真の株主が対話できる制度を求めます。
信託口と議決権行使
パッシブ運用や多数銘柄の保有では、個別企業を十分に調査した議決権行使が難しく、助言会社の画一的基準へ依存しやすくなります。
企業群ごとの特性
銀行・保険、大手事業会社、業績良好企業、地方銀行では、保有目的も縮減の副作用も異なります。一律の量的基準ではなく類型別評価が必要です。
地域経済と地方銀行
地域企業への資本供給と雇用維持を担う地方銀行の持ち合いを、資本効率だけで縮減すると、地域経済の金融化を進める可能性があります。
戦略的事業提携と供給網
技術革新が速く一社完結が難しい時代には、理念を共有する企業間の資本提携が、研究開発、知財保護、サプライチェーンの安定を支えます。
政策保有株式の縮減は、資本集中と株主アクティビズムを加速し得る。
本稿は、売却株式が巨大資産運用機関や海外ファンドへ集まると、同一業界の複数企業を同じ株主が保有する「共通株主」の問題と、短期還元要求の影響が強まると論じます。
Concentration
「分散している市場」に見えても、最終的な意思決定権は集中し得る。
複数のファンドや信託口が株主名簿に並んでも、その背後で同じ巨大運用機関が同業各社を保有していれば、競争、価格、経営方針に共通の影響を与える可能性があります。
ダイドーリミテッド
本稿は、企業が大規模な株主還元を決めた後にアクティビストが売却した事例を、提案受入れ後の保有継続ルールという論点につなげます。
オリエンタルランド
三井不動産による保有が「本業としての投資」かをめぐる対立を、事業関係と純投資をどう区別するかという問題として扱います。
サッポロホールディングス
不動産資産の切り離しと株主還元要求を、資産効率と事業全体の安定性のどちらを優先するかという観点から検討します。
鉄道業
不採算路線の廃止要求を例に、資本効率だけでは捉えられない移動、沿線、地域経済、公共厚生の価値を示します。
「現代版株式持ち合い」は、過去への回帰ではなく役割の再定義。
本稿は伊藤邦雄の「螺旋型ロジック・シフト」を手がかりに、同じ制度が時代ごとに異なる課題へ応答する可能性を示します。
企業集団の安定
戦後再編の中で、安定株主と企業間協調を形成する役割を担いました。
外資・買収への対応
資本自由化の中で、国内企業の経営権と長期計画を守る意味が強まりました。
機能不全への反省
バブル崩壊後は、もたれ合い、含み損、資本効率、議決権形骸化が問題になりました。
長期資本・連携の再設計
グローバル資金と短期アクティビズムの時代に、研究開発、供給網、企業の自律性を支える新たな役割を検討します。
実体経済を担う事業会社
人類に有用な財・サービスをつくり、雇用、技術、取引関係、信頼を蓄積します。東レの炭素繊維、旭化成のリチウムイオン電池など、長い時間を要する研究開発は、安定した経営環境から生まれます。
金融リターンを求める資本
IRR、ROE、株価、配当、自社株買いは投資効率の評価に有用ですが、これを企業経営の最上位目的にすると、将来投資や危機耐性を損なう可能性があります。
一律縮減ではなく、説明責任ある機動的な保有と制度改革へ。
本稿の結論は、すべての持ち合いを維持することではありません。企業が保有の合理性を具体的に説明し、不要な保有を見直しながら、必要な長期関係を守れる制度を設計することです。
Comply or explainの実質を回復する
説明すれば保有できるという原則を尊重し、事実上の一律遵守や保有比率だけの判断を避けます。
企業・業種ごとに便益とリスクを検証する
取引、研究開発、雇用、供給網、資本コスト、価格変動を統合して、個別銘柄ごとの適否を判断します。
真の株主と議決権行使者を透明化する
信託口の背後にいる投資決定者・議決権行使者を把握し、対話と利益相反管理の基盤を整えます。
過度なアクティビズムへの制度対応を整える
提案受入れ後の保有期間、株主提案の濫用、特定株主の利益相反などを会社法・市場法の双方で検討します。
Hard LawとSoft Lawを同時に更新する
縮減を促す規範と、副作用を制御する権利・責任規定を、時間差なく組み合わせます。
危機耐性と「ダムの経営」を評価する
内部留保や余裕資産を単なる非効率とみなさず、災害・金融収縮時に事業と雇用を守る持続性の源泉として評価します。
KGRI-PICの制度改革・企業実装へつなぐ。
フルバージョンの論点は、株主アクティビズム是正、企業別ガバナンス設計、長期資本、地域経済、ハードロー・ソフトロー改正の研究基盤になります。
政策提言
CGコードの政策保有株式原則、実質株主制度、株主提案権、アクティビスト規律を一体で検討します。
企業ワークショップ
各社の保有株式を、資本コストだけでなく、事業連携、技術、雇用、供給網、地域価値から評価します。
データベースと事例研究
アクティビスト提案、議決権助言基準、保有主体、実質株主、企業対応を継続的に収集・分析します。
論文情報・著者
本稿は2025年6月18日版のディスカッション・ペーパーであり、内部討論に資するための未定稿です。本文の引用・複写には著者の承諾が必要です。
原丈人・猪熊浩子(2025)「現代版株式持ち合いに関する考察―株主資本主義の是正に着目して―」Discussion Paper,2025年6月18日未定稿。
本ページは論文の内容を紹介するためのもので、本文PDFの一般公開を意味しません。引用、複写、転載その他の利用については、事前に著者の承諾を得てください。
公益資本主義を、研究から制度・企業実装へ。
KGRI-PICセンターの研究、政策提言、企業ワークショップ、講演・研究会などの活動をご覧ください。