自動二輪車の安全性向上のための情報提示システムの開発

  公益財団法人JKA補助事業 RING!RING!プロジェクト (2015.4-2017.3)


研究概要

    近年,カーナビゲーションシステムは四輪自動車用として広く普及し利用されるようになってきたが,自動二輪車用のカーナビゲーションシステムはほとんど普及していない. スマートフォンなどの小型ディスプレイをハンドルなどへ取り付ける例は見られるが,運転中に視認することが難しい現状が報告されている. 運転中の視認が難しい原因として,二輪車ライダーは路面を注意深く気にして走行すると言われ,路面上の視線移動が多いため小型ディスプレイを視るのが難しいと考えられている. そのため,二輪車ライダーの視線移動の特徴を捉えた,自動二輪車用の情報提示システムの設計が求められている.
    本研究では自動二輪車用のシステム開発を目指しているが,システムの設計としては,路面を注意深く視る視線移動を中心に, 運転中の視線移動から提示情報を視認する時間をできるだけ短く,確実な情報提示ができる方法を明らかにすることが目的である. そのため,情報提示システムの設計には,運転中の二輪車ライダーが行う視線移動の特徴を捉える必要がある. しかし,公道で実車走行を行うのは安全の面から望ましくないため,二輪車ライダーが運転可能なシミュレータを使った設計方法が考えられる. 本研究では,運転可能なシミュレータとして,没入型バーチャルリアリティ環境における自動二輪シミュレータを開発した. 開発した没入型自動二輪シミュレータは,アクセル,ブレーキ,ハンドル操作を行い,シミュレータの世界の中を自由に運転できるようになっている. この没入型自動二輪シミュレータを使い,情報提示システムとして,ウインドシールド型Head-Up Display(HUD) を用いたシステムの検討を行った.



     自動二輪車用HUDの基本設計を行い,小型レーザプロジェクタ,ハーフミラー,光学系レンズ,情報生成用小型PCなどから構成した実験用HUDを開発した. 開発した実験用HUDを没入型自動二輪シミュレータに取り付け,ナビゲーション情報を提示する情報提示実験を実施した. 情報提示実験は,二輪車ライダーの視線計測データから,最適な情報提示位置,情報提示タイミング,情報提示表現方法に関するいくつかの知見を得られた.
     情報提示位置については,二輪車ライダー没入型自動二輪シミュレータを走行中に,交差点手前でいろいろな提示位置で案内情報の提示する実験を行った. 視線計測装置を用いて,提示された案内情報に対する視線の移動時間と視認時間を計測し,評価軸としたデータ分析を行った. 分析の結果,視野の右下あるいは左下への情報提示が有効であることがわかった.

     

     情報表現方法については,まず,漢字,ひらがな,アルファベット,記号などの色々な表現による情報を提示する実験を行った. 案内情報と非案内情報を混ぜた提示実験は,視線計測装置を用いて,提示された情報に対する視線の移動時間と視認時間を計測した. 比較分析の結果,提示する文字の種別により視認時間が影響があり,記号やひらがなを用いた場合は,アルファベットや漢字を用いた場合よりも,視認時間が短く効果的であることがわかった. また,ひらがなを用いた情報提示の場合は,5文字以内に抑えることが有効であることがわかった.
     情報提示タイミングについては,交差点手前のいろいろなタイミングで案内情報を提示する実験を行った. 視線計測装置を用いて視線の移動時間と視認時間を計測し,また被験者アンケートを取り,タイミングの早さについての主観的回答を記録した. 記録したデータを分析した結果,時速約30km/hで走行中の場合は,交差点の約55m手前付近で案内情報を提示することが適切であることがわかった.

     

     これまで得られた知見をもとに,情報提示位置が視野の左右下方となるようHUDを改良した. 改良したHUDは小型化され,実車への実装が行われた. 以上,没入型シミュレータを用いた実験を通して,実車へ実装可能なHUDの試作を行った. 実際のナビゲーションシステムとして使用するには,デジタル地図や走行位置計測などを加えたシステムが必要であるが, 情報を提示する部分の設計に関しては,HUDを用いた案内情報提示システムを実現することができた.


発表論文
    ・伊藤研一郎、立山義祐、西村秀和、小木哲朗:ヘッドアップディスプレイを用いた自動二輪運転者への情報提示位置の評価、ヒューマンインタフェース学会論文誌、Vol.18、No.4、pp.435-442、2016.11 (pdf)
    ・伊藤研一郎、立山義祐、西村秀和、小木哲朗:自動二輪車用ヘッドアップディスプレイにおける提示情報量の評価、日本機械学会論文集、Vol.81、No.830、15-00203、2015.10 (pdf)
    ・小木哲朗、西村秀和、伊藤研一郎:没入型シミュレータを用いた自動二輪車用HUDの設計、第30回テレイマージョン技術研究会、岩手、2016.12.2
    ・伊藤研一郎、西村秀和、小木哲朗:自動二輪車用HUDによる情報伝送量の評価、日本機械学会第25回設計工学・システム部門講演会、JSME No.15-23、長野、2015.9.23-25 (pdf)
    ・伊藤研一郎、西村秀和、小木哲朗:自動二輪車運転支援を目的とした情報種別による視覚情報処理時間の評価、ヒューマンインタフェースシンポジウム2015論文集、pp.837-840、函館、2015.9.1-4 (pdf)
    ・伊藤研一郎、立山義祐、西村秀和、小木哲朗:自動二輪車用ヘッドアップディスプレイの提示コンテンツ設計、日本機械学会 第24回設計工学・システム部門講演会、JSME No.14-27、徳島、2014.9.17-19 (pdf)
    ・伊藤研一郎, 立山義祐、西村秀和、小木哲朗:ヘッドアップディスプレイによる自動二輪運転手への情報提示の評価、日本機械学会 第23回設計工学・システム部門講演会、JSME No.13-22、沖縄、2013.10.23-25 (pdf)
    ・伊藤研一郎、立山義祐、西村秀和、小木哲朗:CAVE二輪シミュレータを用いたHUDの評価、第20回テレイマージョン技術研究会、秋田、2013.6.6-7
    ・Tetsuro Ogi: Design and Evaluation of HUD for Motorcycle Using Immersive Simulator, SIGGRAPG Asia 2015 Head-Up Displays and their Applications, Kobe, 2015.11.2-5 (pdf)
    ・Kenichiro Ito, Hidekazu Nishimura, Tetsuro Ogi: Head-Up Display for Motorcycle Navigation, SIGGRAPG Asia 2015 Head-Up Displays and their Applications, Kobe, 2015.11.2-5 (pdf)
    ・Kenichiro Ito, Yoshisuke Tateyama, Hidekazu Nishimura, Tetsuro Ogi: Development of Motorcycle Simulator in the Immersive Projection Display Environment, ASIAGRAPH 2015 International Conference, pp.41-46, Tainan, Taiwan, 2015.4.24-27 (pdf)
    ・Kenichiro Ito, Yoshisuke Tateyama, Hasup Lee, Hidekazu Nishimura, Tetsuro Ogi: Development of Head-Up Display for Motorcycle Navigation System, APCOSEC 2013, Yokohama, 2013.9.9-11 (pdf))
    ・Kenichiro Ito, Yoshisuke Tateyama, Hasup Lee, Hidekazu Nishimura, Tetsuro Ogi: Information Presentation Using Head-Up Display for Motorcycle Rider, ASIAGRAPH 2013 Forum in Hawai'i, pp.107-108, Hilo, Hawaii, 2013.4.25-27 (pdf)