人は何を目的に生きているのでしょうか? 夢をかなえるため、人の役に立つため、充実した日々を送るため、色々な経験をするため、楽しむためなど、色々な答えがあるのではないかと思います(目的などなくただ毎日を生きている、という方もおられるかもしれません)。では、その目的は何のためなのか、と繰り返し自問してみると、多くの人にとって、あらゆる人生の目的は、「幸せ」につながっているのではないでしょうか? (中には、幸せになると太宰治を楽しめなくなるので、幸せになりたくない、という文学者もおられますが……。)
一方、学術界では、極めて多様なサイエンス・アートの研究が行われています。それらのひとつひとつは、人類の幸せにつながっているでしょうか? たとえば、科学技術を駆使して便利な機械を開発するのもいいですが、それは幸せに寄与しているでしょうか? たとえ、一人当たりGDPを増加させることができたとしても、それは人々を幸せにしているのでしょうか? 過去の幸福学研究の成果によると、収入が7万5千ドルを超えると、収入と感情的幸福の間には有意な相関は認められないことが知られています(ノーベル賞を受賞したカーネマン氏の研究)。
このため、ヒューマンラボでは、幸せで満ち足りた社会を実現するために、まず、幸せに関する研究調査に基づき幸福研究を体系化するとともに、人間・社会をシステムとしてとらえた様々な幸福関連研究を行っています。本HPでは、幸福学に関する参考文献や幸せの定義とともに、ヒューマンラボにおける研究の一部を紹介します。
(1) 国内外の幸福学(well-being study, happiness study)研究はどこまで進んでいるのか?
・しあわせ総合情報サイトに幸せの研究や活動についてまとめましたのでご覧ください。
(2) ヒューマンラボにおける幸福学研究
・幸福度推奨アンケート(SWLS、幸せの4因子など)についての説明ページはこちら
・しあわせ総合情報サイトはこちら
・幸福と相関関係のある要素の因子分析とクラスター分析結果(講演論文、著書)
・他人とのつながりの量(たとえば友達の数)と質(たとえば付き合いの深さ)とでは、どちらがどのように幸福に寄与するのか?(松本直仁氏(2010年3月修了)の修論)
・幸福と欲求のアンケート調査に基づく、システムとしての幸福・満足・欲求・性格の関係解析(蓮沼理佳氏(2012年3月修了)の修論、著書『幸せのメカニズム』)
・「カレンダー○×法」により幸福とは何かを自分にフィードバックすることの効果の研究(佐伯政男)(講演論文)
・スポーツ遊び(遊びとしてのスポーツ)とデジタルゲームの疑似スポーツは、幸福や笑いに与える効果が異なるのではないか?(津々木晶子)
・美しさと幸福の関係解析(大曽根悠子)
・地域活性化と幸福の関係に関する研究(吉備野工房ちみちを事例に)
・幸福な街づくり、ものづくり、サービス作りの研究
・幸せカルタに基づく創造技法の研究
・至福・悟り・システム思想の関係に関する研究
(3) 幸せカルタについて
・詳しい内容を知りたい方、印刷用幸せカルタ(PDF版)をご利用されたい方に、幸せカルタ(PDF 版)を差し上げております。詳しくは幸せカルタのページをご覧ください。
→幸せカルタのページはこちら。
(4) 言葉の定義
・幸福・幸せ: 日本語の幸福・幸せを英語に訳すとhappiness。happinessを和訳すると、楽しさ、という意味もあります。しかし、「幸福」と「楽しさ」ではかなり語感が違います。このため、幸福学研究では、「幸福」よりも「ウェルビーイング(well-being)」という言葉がよくつかわれます。
・ウェルビーイング(well-being): 国際的には、幸福学研究はwell-being studyと呼ばれます。ウェルビーイングとは何か? さかさにして、Being
well.(良い状態であり続けること)と考えるとわかり易いと思いますが、日本語の幸福のイメージよりも、安心、安定、安寧、福祉、健全、健康などに近いニュアンスだと言えるでしょう。
・楽しさ: 「うれしい」は(短期的な)感情、「楽しい」は(感情よりも長く続く)気分、「幸福」は(気分よりも長く続く)心の状態、という違いがありますが、英語では皆、happiness。その違いには注意が必要ですが、本研究室では、「うれしい」から「幸福」まで、様々な幸福研究(happiness
study and well-being study)を行っています。
・健康: 世界保健機関(WHO)によると、健康とは、「完全な肉体的、精神的、スピリチュアルおよび社会的なウェルビーイングのダイナミックな状態であり、単に疾病や病弱でないということとは異なる」とあります(Health
is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being
and not merely the absence of disease or infirmity.)。つまり、「健康」は「ウェルビーイング」に近い概念です。したがって、ウェルビーイング(≒健康)研究は世界的に活性化しているものの、(日本語で言うところの)「幸福学」研究はまだ発展途上にあるというべきでしょう。
(5) 参考文献
・佐伯政男,前野隆司,主観的幸福度のセルフレコーディング手法の開発:カレンダー・マーキング法,行動経済学会第3回大会,2009年12月
・松本直仁,他人とのつながりの量(たとえば友達の数)と質(たとえば付き合いの深さ)とでは、どちらがどのように幸福に寄与するのか?,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2009年度修士論文、2010年3月
・ M. Saeki and T. Maeno, A Simple Method for Assessing Subjective Well-being,
BPS Social Psychology Section Annual Conference 2010, September 2010
・M. Saeki, T. Maeno and S. Oishi, The Optimism and Kindness Intervention
Increased Subjective and Psychological Well-being: A3-week Intervention
Study in Japan, Poster presented at the 13th Annual meeting of Society
for Personality and Social Psychology, January 2012
・蓮沼理佳,幸福と欲求のアンケート調査に基づく、システムとしての幸福・満足・欲求・性格の関係解析,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2011年度修士論文、2012年3月
・大曽根悠子,美しさと幸福の関係解析−審美欲求に着目したアンケート調査に基づいて,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2012年度修士論文、2012年9月
・佐伯政男,蓮沼理佳,前野隆司,主観的well-beingとその心理的要因の関係,日本心理学会第76回大会発表論文集,2012年9月
・佐伯政男,前野隆司,マズローの欲求階層理論の検証,日本社会心理学会第53回大会,2012年11月
・市川愛,アメリカとフランスに学ぶ日本の地域支援型農業の提案−経済・安全・幸福の視点から−,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2012年度修士論文、2013年3月
・佐伯政男,前野隆司,日本人の友人ペアにおける人生満足度の自己評定と他者評定の合致度,日本パーソナリティ心理学会第22回大会,2013年10月
・前野隆司,幸せのメカニズム−実践・幸福学入門,講談社現代新書,2013年12月
著書の説明のページはこちら。
・佐伯政男,大石繁宏,Minha Lee,前野隆司,人生満足度評定とアイテム・オーダー効果の文化差,行動経済学会第7回大会,2013年12月
・M. Saeki, S. Oishi, T. Maeno and Elizabeth Gilbert, Self-informant agreement for Subjective well-being among Japanese, Personality and Individual Differences, Vol. 69, 2014年6月, pp. 124-128
・M. Saeki, S. Oishi, M. Lee and T. Maeno, Life Satisfaction Judgments and Item-Order Effects Across Cultures, Social Indicators Research, Vol. 118, No. 3, 2014年9月, pp.941-951
・佐伯政男,日本人の幸福度向上のための幸せの文化差・地域差の研究,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2014年度博士論文、2015年3月
・篠田結衣,幸福の4因子を用いた強制連想法の開発とオフィスデザインへの活用,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2014年度修士論文、2015年3月
・楠聖伸,児童養護施設入所児童のレジリエンスを高めるワークショップ手法の提案―退所後の自立支援にむけて―,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2015年度修士論文、2016年3月
・石渡美奈,森林における内省と対話の効果に関する研究―各人の自己観・他者観と幸福度に着目して,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2015年度修士論文、2016年3月
・阿部なるみ,セルフケア促進のためのストレス対処マップの提案,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2015年度修士論文、2016年3月
・赤羽裕子,コンテキスト図を使用した人間関係可視化手法の提案―死別喪失からのレジリエンス向上をめざして―,慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科2016年度修士論文、2017年3月