デジタルサイネージによる情報フィードバック |
人々が健康に対する意識を持続させ、ヘルスリテラシーを向上させるためには、健康に関する情報を効果的に個人にフィードバックさせることが重要である。この際、健康に関する意識が強い間は、自分から PC やスマートフォン等を用いて必要な情報にアクセスすることは可能だが、健康意識が低下することにより情報のアクセス頻度も低下してしまう。 そのため、健康意識を持続、向上させるためには、利用者自身が特別な行動を起こさず、 知らないうちに健康に関する情報が得られるような情報フィードバックの仕組みが必要 である。このような仕組みとして、本研究課題ではプッシュ型デジタルサイネージの開発 を行っている。 プッシュ型デジタルサイネージとは、公共空間に置かれたデジタルサイネージの前を利 用者が通りかかると、デジタルサイネージが利用者を誰であるかを識別し、その利用者に合わせた情報を提示するディスプレイシステムである。利用者は目の前のデジタルサイネ ージに自分向けの情報が提示されることで、提示情報に自然に目を向けることが期待され る。このようなシステムを実現するため、昨年までは Wi-Fi 機器や iBeacon を利用した 利用者の到底方法の開発、およびゲーミフィケーションを考慮した提示情報の設計を行った。 Wi-Fi 機器を用いた利用者の同定とは、利用者が所持するスマートフォン等の Wi-Fi 機器が、周囲のアクセスポイントを探し、Wi-Fi ルータを見つけ接続を試みる際に、自身の MAC アドレスを送信する仕組みを利用した方法である。デジタルサイネージにWi-Fi ルータを設置することで、デジタルサイネージの周囲にいる利用者が所持する Wi-Fi 機器の MAC アドレスが受信される。この方法を用いることで、あらかじめ利用者の所持する Wi-Fi 機器の MAC アドレスを登録しておくことで、その利用者を特定することができる。 しかしながらこの方法は、他のアクセスポイントを先に検出している環境では利用できない、Wi-Fi の電波強度の不安定さにより利用者が検出される距離が安定しない、等の問題 が存在する。それらを解決するためにiBeacon を利用して利用者の同定をおこなった。 iBeacon を用いた利用者の同定は、BLE(Bluetooth Low Energy)を用いた近距離 通信方式で、Apple の iPhone や iPad 等の携帯端末で、iOS7 以降の OS に導入された ことから、近年広く普及しつつある。iBeacon から発せられた電波を受信すると、iOS を 用いたデバイスでは、対応するアプリケーションがバックグラウンドで起動し、約 10 秒 間プロセス処理を実行することができる。この際、iBeacon は UUID(Universally Unique Identifier)、Major、Minor 等の ID 情報を送信するため、iBeacon の信号を受けたデバ イスは iBeacon の ID に従って対応するアプリケーションを実行することが可能である。 この特徴を用いてプッシュ型デジタルサイネージの周囲に近づくと iBeacon 信号を受信 し、バックグラウンドで利用者を識別する ID を送信するアプリケーションを起動させ、 利用者をデジタルサイネージに識別させることが可能になった。
プッシュ型デジタルサイネージのシステム構成
しかしながらこの方法についても、アプリケーションを事前に登録しなければならない、またユーザのスマートフ ォンの識別 ID を登録する等、実際に利用するには障壁が高いことが懸念される。そのた めiBeaconによる利用者の同定方法に代わりBLEを用いた活動量計とデジタルサイネージの直接通信方式の同定方法の利用について検討を行った。
BLE を用いた活動量計との直接通信の検証実験より、活動量計との直接通信によるプ ッシュ型健康デジタルサイネージのシステムを構築した。 デジタルサイネージは、小型PC(ZOTAC、ZBOX CI520 nano)と4Kテレビ(SONY、 BRAVIA KJ-49X8000C)で構成した。ここで、BLE を検出するのに、USB 接続の Bluetooth アダプタ(ELECOM、LBT-UAN05C2)を使用した。このシステムは小型 PC が Bluetooth アダプタで絶えず BLE 電波をスキャンし、周辺に BLE アドバタイズ 電波を発信している機器がないか探索している。利用者が BLE アドバタイズ電波を発信している活動量計を持って近づき、小型 PC へ接続されている Bluetooth アダプタでア ドバタイズ電波を受信すると、利用者の活動量計の Bluetooth アドレス(BDADDR)を識別する。識別した BDADDR に該当する利用者がサイネージ用データベースに登録されている場合は、デジタルサイネージの提示内容を変更する。 デジタルサイネージは、システム内部にサイネージ用データベースとして健康情報に関するデータを有しており、ディスプレイの前に利用者がやってくると、その利用者に関する健康情報を利用者に対してカスタマイズした内容に変更して表示する。BLE アドバタイ ズ電波が発信され続けている状態であれば、利用者が近づいてくるだけで、特別な行動を起こさなくても、デジタルサイネージの表示内容が自動的に切り替わる仕組みとなっている。デジタルサイネージ内のサイネージ用データベースは、健康情報データベースサーバと準同期レプリケーションで常に最新のデータ内容を保持している。 BLE 直接通信によるプッシュ型健康デジタルサイネージのシステム構成
プッシュ型健康デジタルサイネージを利用している様子
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